2017年2月21日火曜日

現代日本人文芸:二宮正治小説:二十歳の女性の愛と性::陽子の場合:第23回

「大きな事を言われてその気で育って高校を卒業したら厳しい現実を目の当たりにして心を患い自殺を図るのが広島市安芸区矢野大井地区のパターンか」
 陽子はため息をついた。
「何とかならないのNさん」
 明夫が懇願するようにNにこう聞いた。
「この地区が飛び地である事が子供の頃は有利に働く。他の広島市民の怒りが分からないからだ。だが、高校を卒業したらその憎しみを一身に受ける。同じ矢野でも広島市安芸区矢野地区は他地区と接しているし他地区との婚姻の実績も有る」
 Nのこの言葉に明夫は男泣きに泣いた。
「オレたちはどうすれいいのだ」
 肩を震わせる。
「中国五県が中国州になるか、広島都構想をつくりあげるしかない」
 Nのこの言葉に、
「Nさん動いてよ」
「動いてるよ。明日実現って訳にはいけない」
 二人のやりとりに、
「この地区の若い女の子は生きた心地がしないのよ」
 陽子が涙声でこう言う。
「なるようにしかならない」
 明夫はテーブルを叩いてこう絶叫した。

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